東京高等裁判所 昭和38年(ネ)738号・昭38年(ネ)565号 判決
本件建物の所有権が原告に属するものと確定された以上、被告は右訴訟提起の時から右建物の悪意の占有者とみなされるわけであるから、その後は一応原告に対し不法占有による損害賠償の義務を有するものと認めなければならない。しかし、原告は本来旧建物の賃借人であつて、その敷地を所有者たる鈴木はつから賃借したものではなく、その地上に新たな本件建物を所有するにいたつたとしても、その建物はこれを収去せざるをえない関係にあることは、前説示のとおりである。このように建物を即時に収去すべき義務ある者が自らの義務の履行に着手せず、その敷地所有者が建物を不法に占有していることを理由としてこれによる損害の賠償を求めることは許されないものと解さなければならない。けだし、この場合建物所有者は本来これを建物の状態において利用する権原を失つているものであつて、敷地所有者との関係において保有すべからざる建物を保有することによる利益の喪失を主張することは、クリーンハンドの精神に悖るからである。
(長谷部 岡田辰 舘)